深掘り*タカラヅカ

男役イメージの研究で修士号を取得した筆者が、宝塚をあれこれマニアックに深掘りします。

昔は男役もスカートを履いていた!? 【オフにおける男役イメージの変遷①】

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こんばんは🌙

先日、大学院の修士課程を修了致しました。

 

学部時代より宝塚歌劇の研究を続け、男役イメージの変遷をテーマに修士論文を執筆したのですが、

 

 

大変ありがたいことに、読みたいとのお声を沢山頂戴しましたので…

今回から「オフにおける男役イメージの変遷」シリーズと題し、修論を構成し直したものを更新していきます°˖✧

 

 

このシリーズは、

「オフにおける男役イメージが、どのように形成されてきたか?」

という疑問を明らかにすることを目的としています。

 

解明にあたって注目するのは、男役のファッションです。

後述しますが、ファッションというのはイメージの形成に大きく関わってくるからです。

 

 

論文の「問題の意識」にあたる今回、さっそく行ってみましょう!

 

 

 

はじめに

皆さま、男役はお好きですか??

 

ファンの圧倒的な人気を集め、宝塚歌劇における魅力の中心とも言える男役。

舞台上で究極にかっこいいお姿を見せて下さるのみならず、舞台を降りた後も男役らしいファッションや振る舞いなどで、私たちファンを魅了してやみません。

 

オンでもオフでも、絶えず男役らしくて素敵…♥

つまり現代の男役は、「オフステージにおいても男役のイメージを保ち続けている」とも言えますよね。

 

 

しかし驚くべきことに、昔は男役もオフではスカートを履いていたということを、皆さまご存じでしょうか!?

 

 

男役とスカート 甲にしきさんの証言

花組の男役として活躍し、現在は東京宝塚劇場の支配人を務める小川甲子(芸名:甲にしき、在団:1960年~1974年)さん。

『悲劇喜劇』のインタビューにおいて、自身が現役であった頃の男役と現在の男役で変わった点について、以下のように語っておられます。

 

 昔は舞台の上とプライベートの差がもっと大きかったですね。私のころは男役もプライベートではミニスカートを履いていたんですよ。昔のお客様は、プライベートは普通の可愛らしい女の子なのに舞台にあがるとかっこいい男役を演じるというギャップや、役者の化け具合に魅了されていたのだと思いますね*1

 

なんと甲さんの現役時代は、男役もオフではスカートを履いていたそうです!

 

 

ここで当時の『宝塚グラフ』をパラパラとめくり、オフのポートレートを確認すると……

甲さんのスカート姿が、ゴロゴロ出てきました。

しかも甲さんだけではなく、男役さんはみな確かにスカートを着用していました。ゴクリ。

 

ネットで写真が見られる例でいうと、甲さんと同時代に活躍された真帆志ぶきさん。

1971年の『ノバ・ボサ・ノバ』初演において、主演のソールを演じられた方です。

 

この方のスカート姿が、Wikipediaに掲載されています。

ja.wikipedia.org

 

 

 

また1960年代までは、パンツスタイルの男役さんは数えるほどしかおらず、真帆さんの写真のような感じで、男役はみなスカートを履いていたのでした。

 

オールドファンの方は、「ああ、そんな時代もあったわね」と思われるかもしれませんが、ここ7年ほどのファンである私にとって、この事実はなかなかショックでした…

 

 

男役イメージが変わってきている!

上記のように、男役がスカートを履いていたという事実から、当時の男役はオフにおいて男役らしいイメージの姿ではなかったと分かりました。

 

一方皆さまご存じの通り、現代において男役はオフでも男役のイメージを保ち続けています。

したがって過去と現在とでは、オフにおける男役のイメージが異なっているとも言えるでしょう。

 

オフにおける男役イメージが、過去と現在とでは変わってきている…

そこで本シリーズでは、舞台外すなわちオフステージにおける男役のイメージが、どのように形成されてきたかを明らかにします!

 

 

 

服装の性差

分析に際して注目するのは、『宝塚グラフ』のポートなどで確認できる、オフのファッションです。ファッションというのは、イメージ形成に関して重要な役割を果たすものであるからです。

 

特に男役が男役イメージを作る際には、衣服が持つ性差の記号を利用していると考えられます。この記号に関しては、以下のように説明がなされます。

 

長い間、人は男/女の性差によって衣服を区別し、適宜に使い分けてきた。使い分けは、身分・階層・職業・世代の差にもよるが、どこにいってもまず男女差による衣裳の違いはすぐに目につくものだ。(中略)衣服の区別のしかたは、形態・色彩・模様・生地の差に始まり、紐の結び方、ボタンのつけ方、皺のよせ方にまで及ぶ。衣裳は、まさに豊かな〈記号の森〉である。

その記号の森のなかで、男性/女性の差異を印象付ける記号が他より際立った要素であることは、多くの文化に共通している*2

 

 

つまり、衣服の各要素は男性/女性を示す記号を持っており、それらの記号を受け取って私たちは、着用者に対して男性/女性の印象を抱きます。

(このあたりもっと詳しく知りたい人は、ロラン・バルト記号論をご参照くださいませ)

 

 

もっと簡単かつ具体的に書くと、パンツは男性・スカートは女性という記号を持つアイテムです。

 

また、男性・女性ともに着用するジャケット。

実はよく見ると、男女で襟の合わせが左右逆に作られています。

(男役と娘役がどちらもスーツを着ている場面だと、合わせの違いが分かりやすいかもです。)

 

この襟の合わせという要素が、男性/女性という記号を持っていると説明できます。

 

 

 

したがって男役が男役イメージを作るには、男性の記号を持つファッションを身に纏えば良いでしょう。

実際に男役はオフにおいてパンツスタイルを貫いており、パンツという男性の記号を持つアイテムを利用して、男役イメージを作っています。

 

反対に、オフの甲さんや真帆さんの姿に男役イメージが読み取れないのは、真逆の女性記号を持つファッション―つまりスカートを着用していたことが原因でしょう。

 

このように、男役イメージには衣服が持つ性差の記号が深く関わっています。

したがって男役イメージ形成を論じるうえで、ファッションに注目することが重要であると分かりますね。

 

 

 

次回は、

「そもそも、なぜファンは男役にパンツスタイルを求めるのか?」

という点について考えていきます💫

 

 

②はこちら👇

natsu3ichi.hatenablog.com

 

 

 

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*1:小川甲子「新しいことに挑戦しつづけて」『悲劇喜劇』2018 年 9 月号、早川書房、p.17

*2:石井達郎『異装のセクシュアリティ新宿書房、2003年、p.20