深掘り*タカラヅカ

男役イメージの研究で修士号を取得した筆者が、宝塚をあれこれマニアックに深掘りします。

ファンの期待を優先するイメージ作り(1980s~Ⅳ)【オフにおける男役イメージの変遷⑫】

 

こんばんは🌛

 

月組初日、誠におめでとうございます。

無事に幕が下りたということで、月ファンとしても大変嬉しいです。

 

 

こちらの男役イメージシリーズですが、段々と終わりが近づいて来ました…。

今回も含め残り3回、頑張って書いていきますね💪

 

 

前回の⑪では、90年代まではまだ男役イメージに揺らぎがあったという点や、「女性としての面も残したい」という、男役自身の希望も選び通していたという点を指摘しました。

natsu3ichi.hatenablog.com

 

 

 

実は2000年代に入ると、この選択に変化が現れます…

 

そこで登場するのが男役イメージ確立・第3の視点である、「ファンの期待を優先するイメージ作り」です。

 

 

 

 

 

 

スカートによる男役イメージの破壊

現代において男役がオフでもスカートを着用しないのは、男役が自ら「男役」になりきるためということに加え、ファンのイメージを壊さないためという気遣いもある*1とされています。

 

つまり⑩で確認したように、

natsu3ichi.hatenablog.com

 

男役を極めるために彼女たちがスカートを排除していく中で、いつしか男役のスカート姿は、ファンが抱く男役イメージを壊してしまうものとなったと考えられます。

 

 

そしてこういったイメージの破壊がなされるのは、②で紹介したタカラジェンヌの四層構造」の中で指摘するような、

natsu3ichi.hatenablog.com

 

「ファンは舞台を下りた後でも男役/娘役のイメージを崩さないことを求めている*2という、男役に対するファンの消費構造が出来上がったのが理由にほかならないでしょう。

 

 

自身の希望よりファンの期待

オフのファッションに関して、男役のイメージを壊さないようなものを身に纏うという姿勢は、2001年における紫吹淳さんの、以下のような発言にも見られます。

 

舞台上では徹底して男を追究して、舞台を降りたら、まあスカートははきませんが、ひとりの“男優”というか俳優でいたい。そして時代を感じていたいです。実はスーツはあまり好きじゃなんいですけど、お洋服をいろいろと着るのはすごく好きでして、スカートをはけないのは実は悔しいのですが、まあ、それは“後々の夢”としてとっておきまして。

 ただ、ふだんの装いも男役像を壊さない程度にしなくては。宝塚をしょってたつ立場なので、そういうとろこ(原文ママ)は気をつけないといけません*3

 

 

 

以上より、「男役だからスカートは着用しない」「オフのファッションは、男役イメージを壊さないものにする」という男役の意識は、この頃には確立していたと考えられます。

 

 

 

加えて注目したいのは紫吹さんが、「スカートをはきたいが、男役としては着用できない」と発言している点です。

 

 

⑪で確認したように、90年代までの男役はスカートの着用などを通じて、女性としてありたいと思う男役自身の希望を通していました。

 

しかし紫吹さんは、スカートをはきたいという自身の希望よりも、ファンが抱くような男役イメージを壊さないことを優先しておられたのです!

 

 

かくして、男役自身の希望よりもファンの期待を優先するという形で、「男役はスカートを着用しない」という構図が出来上がったと考えられます。

 

 

 

 

この転換は、オフの男役イメージの確立にあたってかなりエポックメイキングだと思いますね…

これに気づけた時は、興奮のあまり震えが止まりませんでした。

 

 

 

 

スカステの開局と、オフの露出機会の激増

さらに2002年には、タカラジェンヌのオフの露出量が格段に増える出来事が起こりました。

それは皆さまご存じ、「TAKARAZUKA SKY STAGE」の開局です!

 

みんな大好き、私も大好きスカステ。

最近開局20周年を迎えたのも、記憶に新しいですね。

 

 

スカステでは公演の映像はもちろんのこと、本シリーズで扱うような、オフのタカラジェンヌが登場する番組も放送されていますよね。

 

このチャンネルの登場が、ファンやタカラジェンヌにどのような影響を与えたかに関しては、以下のように説明がなされます。

 

 

舞台外でのタカラジェンヌの姿をファンが見る機会が激増した。それまでは舞台の上での役作りやセルフプロデュースに専念すればよかったが、舞台外でのオフの姿(それは完全なオフではなくあくまでもタカラジェンヌとしての作られたオフである)やトークスキルも求められるようになり、またスカステ番組がきっかけで人気が出る生徒も出現するようになった*4

 

 

以上の記述は、『宝塚グラフ』や『歌劇』におけるオフの姿に関しての記述がなく、開局以前はオンだけに専念すればよかったという点には、疑問が残ります。

 

しかし、ファンがオフのタカラジェンヌの姿を見る機会が激増したという点や、タカラジェンヌがオフの姿を作ることを求められるようになったという点は、注目に値するでしょう。

 

 

それまでのオフの姿といえば、雑誌の数ページや入出・お茶会など、限られた媒体・空間においてのものでした。

また後者の姿は、活動に参加できるごく一部の人しか見ることができないものでした。

 

しかしスカステの登場により、チャンネルに加入さえすればその場に行かずともオフの姿を見ることができるようになったというのは、かなり大きなことですよね。

 

 

 

また番組がきっかけで人気が出る生徒も出現したという点は、舞台上――つまりオンだけでなく、番組内でのオフの姿もまた商品となるということをタカラジェンヌがはっきりと自覚する契機となり、彼女たちがますますオフの姿に磨きをかけるようになったとも考えられます。

 

(男役イメージの話とは少しずれるかもしれませんが、スカステの番組で人気が出た男役としては、紅ゆずるさんが代表例でしょうか…)

 

 

そして男役側もオフの姿を「見られる」ことが格段に増え、ファンからの期待を強く意識するようになり、ファンが抱く男役イメージをより強固なものとして体現していくようになったのではないでしょうか。

 

 

 

オフにおける男役イメージの「確立」まとめ


以上⑨〜⑫の記事をまとめると、

1. トップコンビ制度によって、オフの姿でも男役を演じるという雑誌記事が登場した。

 

2.「オフでもストイックに男役の芸を磨く」という姿勢が広まり、それはスカートを排除するというファッション面にも及んだ。

 

3. 自身の希望よりもファンの期待を優先し、男役としてのイメージを壊さないようなファッションでのイメージ作りが行われるようになった。

 

 

これらの3点をきっかけとし、1980年代以降、「オンとオフに連続性が存在する宝塚の男役イメージ」が確立していったと結論付けます。

 

 

 

 

やーっとやっとここまで来ました…🥲

 

次回は、「それでもやっぱり男役のイメージには、今でもズレ/ズラしがあるよねー?🤔」という点について言及したいと思います🍒

 

 

 

 

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*1:中本千晶『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』東京堂出版、2011 年、p.48

*2:東園子「『宝塚』というメディアの構造――タカラジェンヌの四層構造と物語消費」 青弓社編集部編『宝塚という装置』青弓社、2009 年、p.24

*3:「私は常に役に染まりたい 紫吹 淳 月組「大海賊」「ジャズマニア」制作発表[2]」SUMiRE STYLE 010710、http://www.sankei.co.jp/enak/sumirestylevintage/takara/010710_2.html

*4:嵯峨景子「宝塚と男役 “格好良さ”の伝統とアップデート」『ユリイカ』2014年9月臨時増刊号 総特集=イケメン・スタディーズ、青土社、p.216