深掘り*タカラヅカ

男役イメージの研究で修士号を取得した筆者が、宝塚をあれこれマニアックに深掘りします。

男役のスカートはいつまで?―男役/女性の揺らぎ(1980s~Ⅲ)【オフにおける男役イメージの変遷⑪】

 

 

こんばんは☔

続きを書くのがまたまた久しぶりになってしまいました💦

思えばこのシリーズの大元になった修士論文を完成させたのが、もう半年も前のことになるのですね…半年間あっという間だった…

 

 

さて、⑨・⑩とオフにおける男役イメージが「確立」したと考えられる1980年代を見て来たのですが、

natsu3ichi.hatenablog.com

natsu3ichi.hatenablog.com

 

 

その「確立」の経緯として、

 

1.トップコンビ制度が定められたことにより、雑誌においてオフの姿でも男役を演じるという記事が登場した。

 

2.「オフでもストイックに男役の芸を磨く」という姿勢が広まり、それはスカートを排除するというファッション面にも及んだ。

 

 

という現象を紹介しました。

 

 

 

しかし上記の二点のようなことが起きる一方で、1980年代以降もオフの男役イメージには「揺らぎ」が存在していたと考えられます。

 

それは当時の雑誌において、男役自身が“女性としての面を残す”ということを敢えて選び取っていたように思われるポートレートやインタビュー記事が、多数掲載されていたからです。

 

 

 

 

 

 

男役とスカート―1980年代

1980年の『宝塚グラフ』には「スター・カタログ」と題された、男役たちが様々な質問に答えるコーナーが連載されていました。

 

その中で「おしゃれ ファッションの傾向」という項目には、彼女たちがスカートを所持したり着用したりしているという情報が記されています😲

 

 

その箇所を抜き出してみると…

 

・その時のフィーリングに合ったおしゃれをするのが楽しみ。スカートも大いに愛用*1。(順みつきさん)

 

・スカートは前よりは多くはく傾向にあるけど、これはブーツをはくことが多いせいもある*2。(寿ひずるさん)

 

・今まではパンタロンが多かったのに最近はスカートが増えてるの*3

松あきらさん)

 

 

あら、やっぱり当時は男役も「スカート履いてます!持ってます!」ってバリバリ言ってたんですね~。

 

 

 

また1980年代後半になっても、男役がスカートを履くという現象は続いていました。

 

例えば『宝塚グラフ』1986年12月号には、剣幸さんが髪飾りを着けて髪を結び、ピンク色のスカートを着用したポートレートが載っていました🚙

(細かくて車か電車かよく分からないんですけれど、着けておられる乗り物型のアクセサリーがまたお洒落で、これはこれで素敵なんですけどネ)

 

 

また『宝塚グラフ』同年7月号において、男役のファッションに関する記事を発見🔍

そこで高汐巴さんは、「ズボンに飽きた時など、最近はスカートをはく事もあるんですよ*4」と述べておられます。

 

 

加えて当時、剣さんは月組のトップスター、高汐さんは花組のトップスターという立場でした。

トップさんであってもスカートを履いて女性としての面を残していたというのは、今から見るとかなり驚きの事実です😳

 

 

 

男役とスカート―1990年代

そして1990年代に入っても、「男役もスカートを着用/所持する」という写真や記述は、極めて少なくなるにしても残っていました。

 

 

グラフのポートレートで言うと、1990年11月号には北斗ひかるさんの、1995年1月号には香寿たつきさんのスカート姿が掲載されています。

 

北斗さんの方に至ってはなんと、彼女のサヨナラ特集のポートレートでした。

今の感覚だと、このコーナーでは男役の集大成としてのお写真を載せるのがナンボな気もしますが…

(イイ女風の格好いいスタイルではあるものの)イヤリングにブラウス、タイトスカートにハイヒールでばっちりポーズを決める北斗さんのお写真に、当時のファンはどのような想いを抱かれたのでしょうか…😰

(ああ、もう女性になっちゃうんだなっていう現実を突きつけられる哀しみが余計募りませんか😭それとも敢えて、男役マジックが解けた卒業後のお姿を先に載せておく作戦なのでしょうか。そもそもせっかくまだ在団中で男役なのに、サヨナラポートの一枚を女性としての姿に割くなんて、勿体なくないですか…考えれば考えるほど分からん……)

 

 

 

また『歌劇』1996年2月号には、男役のスカート所持に関する記事が掲載されていました。

 

それは花組の下級生3人が、トップである真矢みきさんにインタビューするというものなのですが…

聞き手の一人である初風緑さんは真矢さんに、「スカートは持っていますか?*5」という質問を投げかけています。

 

気になる真矢さんの答えは、「持ってないかな。*6」というものでした。

 

しかしこのような質問が出るというのは、当時はまだスカートを所持している男役も存在していたことの証拠でしょう。

 

 

 

絵麻緒さんが吐露した「男役/女性の葛藤」

加えて、資料を探していて印象的だった絵麻緒ゆうさんのインタビュー記事を紹介しますね。

 

⑩では下級生時代の絵麻緒さんが、男役芸を磨くためオフでも男役の所作を行っていたという、以下のエピソードを引用しました。

 

――男役十年とよくいわれますが、それを経てみて如何ですか?

(中略)十年の間に身体に染み付いているものは大きくて、電車の中でもつい足を広げて座っていたりします。それは下級生の頃にいろいろと男役の座り方を研究して、普段から男っぽくしようとしていたからなのですが*7

 

 

実はこの話には続きがあってですね…

それが、こちら。

 

今になって、ふとそれは女性としての恥じらいがないのかなと思って反省することがあったんです。だから、これからは舞台の上ではよりバリバリの男役でいたいと思う反面、オフでは年相応の女性として過ごし、オンとオフのギャップを楽しんでいきたいと思っています*8

 

 

このような絵麻緒さんのエピソードからは、オフにまで男役が浸蝕することと、女性であることの間の複雑な葛藤が伺えます。

オフでも男役のイメージを作るという風潮が広まる中で、当時の男役が抱えていた「男役としての自分」と「女性としての自分」の揺らぎが、端的にあらわれているのではないでしょうか。

 

 

そして最終的には「オフの間は女性としてありたい」とも宣言し、男役であっても自身の希望を貫くという姿勢を見せておられます。

(今回のキーアイテムであるスカートへの言及はありませんが…)

 

 

 

今の男役さんがこんなことを宣言されたらビックリしちゃうなと、記事を発見した当時は本当に衝撃的でした。

 

 

ですが、今のようなオフの男役イメージが徐々に形作られていく中で、このような葛藤を抱えていた男役さんも、もちろん存在していたということなのですよね。

 

また表には出さずとも、同じような葛藤を抱かれる男役さんが現在進行形でいらっしゃったとしても、何らおかしくはないような気もします。

 

 

 

男役のスカートはいつまで?

最後に、タイトルに用いた「男役のスカートはいつまで?」という疑問に関して。

 

全ての雑誌媒体を確認できたわけではないので管見の限りですが、最後に男役のスカート姿のポートレートが確認できたのは、上述の『宝塚グラフ』1995年1月号(香寿たつきさん)でした。

 

また『歌劇』1996年2月号には、男役のスカート着用/所持を匂わせる記事が掲載されていました。

 

よって問いの答えとしては、「1990年代までは、男役は確かにスカートを着用していた」というものにしておきます。

 

 

また当時の男役は、スカートの着用などを通じて女性としての面も敢えて残しており、「女性としてありたい」という自身の希望も通していたということが考えられました。

 

 

 

 

こんな感じで1990年代までの男役イメージにはまだ揺らぎがあったのですが、次回はいよいよ2000年代に突入。

現在の私たちに馴染み深い、オンとオフに連続性のある男役イメージが「確立」する第三の点について論じます。

 

またそれに大きな影響を及ぼしたと考えられる、先日20周年を迎えたみんな大好き(私も大好き)な、あのメディアも登場しますよ~🌟

 

 

 

 

読んで下さってありがとうございます👗👖

 

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*1:順みつき スター・カタログ」『宝塚グラフ』1980年1月号、宝塚歌劇団、p.38

*2:寿ひずる スター・カタログ」『宝塚グラフ』1980年4月号、宝塚歌劇団、p.44

*3:松あきら スター・カタログ」『宝塚グラフ』1980年6月号、宝塚歌劇団、p.36

*4:「スター・スコープ:ファッション拝見②」『宝塚グラフ』1986年7月号、宝塚歌劇団、p.24

*5:「ヤングトリオの、とことん素顔に大接近⁉〈真矢みき〉」『歌劇』1996年2月号、宝塚歌劇団、p.126

*6:「ヤングトリオの、とことん素顔に大接近⁉〈真矢みき〉」『歌劇』1996年2月号、宝塚歌劇団、p.126

*7:「カラー企画/VOICE -絵麻緒ゆうナチュラルな心を持ち続けて-」『宝塚グラフ』1998年2月号、宝塚歌劇団、p.11

*8:「カラー企画/VOICE -絵麻緒ゆうナチュラルな心を持ち続けて-」『宝塚グラフ』1998年2月号、宝塚歌劇団、p.11