オフもストイックに!芸を磨く男役たち(1980s~Ⅱ)【オフにおける男役イメージの変遷⑩】
こんばんは🌟
他の創作に命を捧げていたので、久しぶりの更新となってしまいました😅
(今度また書きます)
前回から、時代は1980年代に突入。
オフの男役イメージが「確立」していく経緯を、三つの観点から見ています。
今回は二つ目の、「オフでもストイックに芸を磨く」という男役たちの姿勢に注目しますよ~🤩
前回のおさらいはこちら👇
男役十年・今むかし
まず根源的なところですが、「男役」の作られ方について、改めて考えてみたいと思います。
男役。
それは私たちが、ちょっとやそっとで真似できるものではありません。
男役とは実際の男性を演じるのではなく、独自の美学や様式美を有した型であり、「男役十年」という言葉が示すように、長い時間をかけて磨かれていくもの*1とされています。
つまり男役というのは、一年や二年で簡単に体現できるものではなく、十年といった長い時間をかけて極めてこその存在であるとも言えるでしょう。
また、「男役十年」という言葉について。
この言葉が使われ始めた最古の記録は、残念ながら調べ切ることができなかったのですが、1973年1月号の『宝塚グラフ』には、以下のような記述がありました。
男役をものにするには十年はかかるという“男役十年”の定義がいまもタカラヅカに生きている。汀夏子はきっちりその十年目に栄光の座についた*2。
以上のように、「男役十年」というフレーズは、既に1970年代の初めには存在していたことが分かります😳
オフでも男役の芸を磨く?
このように、ものにするには十年もの歳月がかかるという宝塚の男役。
そんな中で一日でも早く理想の男役像に達するべく、オンのみならずオフでも男役の所作などを色々やってみて男役の芸を磨くという男役さんのエピソードは、枚挙にいとまがないですよね!
例えば『宝塚グラフ』1998年2月号において絵麻緒ゆうさんも、以下のようなエピソードを明かしています。
――男役十年とよくいわれますが、それを経てみて如何ですか?
(中略)十年の間に身体に染み付いているものは大きくて、電車の中でもつい足を広げて座っていたりします。それは下級生の頃にいろいろと男役の座り方を研究して、普段から男っぽくしようとしていたからなのですが*3
以上より男役として絵麻緒さんは、普段からも男っぽく振る舞い、男役としての芸を磨いていたということが分かります。
舞台の上や稽古場のみならずオフにまで芸を磨くことは、男役を極めるにあたって熱心な姿勢であると言えるでしょう。
そして絵麻緒さんは1987年のご入団ですから、1980年代末くらいにはもう、男役の間でそのような姿勢が広まっていたということでしょうか。
ですが、もっと昔はそうだったわけでもなさそうです。
例えば、1972年ご入団の高汐巴さんのお話。
以下はこちらのインタビューにおいて、高汐さんが男役の芸をどのように磨いていったかというところなのですが…
竹山:入団後、同期の方々は助けてくださいましたか。
高汐:はい、みんなで弱い部分は助け合いましたが、それでも自分で戦っていくしかない場所なので……。でも、そんな中ですごくいろいろなことを吸収していきました。女性が男性を演じる部分では、生活の中にまったくない感覚を身につけていかなくてはいけないわけです。フランス映画などを観て、男性のかっこいい所作などを勉強しました。
竹山:目標になるモデルさんとか俳優さんはいらっしゃったのですか。
高汐:すべてです。どんな映画もその中から参考にするというか。あと、美術館に足を運んだり、アートに触れたり、あらゆるものを参考にしたという感じです。
竹山:その頃は椅子に座る時も足を開かれて、普段から男っぽくしていたということも?
高汐:それはないです! 声も低かったので、男役は割と合っていたんじゃないですか。稽古は厳しかったですが、舞台は楽しく、面白かったですからね*4。
なんと、高汐さんは普段から男っぽい所作をする、というところまではいっていなかったそうです😲
高汐さんから絵麻緒さんの間が少し開いているので、これだけでは何とも言えないのですが…
70年代くらいまでは、男役がオフにまで男らしく振る舞って男役の芸を磨くという風潮は無かったのかもしれません。
⑨までの記事で確認したように、これは70年代までの男役はファッションもガチガチに男役らしいものを着ていなかった、という点もまた関係しているかもしれませんね。
ファッションもストイックに!スカートはNG
また、オフに関して更にストイックな姿勢を貫く男役も登場してきていました。
そしてそのような男役は、オフのファッションであるにも関わらず、男役を極めるうえではスカートが邪魔者になるとみなします。
ここでご登場頂くのは、究極の男役というイメージの瀬奈じゅんさん😍(入団:1992年)
こちらの退団後のインタビューにおいて瀬奈さんは、「とにかくひたすらカッコいい男役でありたかった。完璧でスキのない男役が私の美学でしたから」と語るうえで、「男役でいくと決めた日からスカートははかなかった」と述べておられます*5。
ここから、スカートの存在が男役を極めるにあたって障害になるという認識や、スカートを履かないことを徹底するという、男役を極めるにあたってオフの視覚面においてもストイックな姿勢を貫くという意識も伺えます。
瀬奈さんの究極のかっこよさには、こういったストイックな男役の美学もにじみ出ていたということなのでしょうか…
また瀬奈さんの発言とも関連したところで言うと、「男役だからスカートは着用しない」という意識は、『宝塚グラフ』1996年9月号における和央ようかさん(入団:1988年)の発言にも見られます。
和央さんは普段着のおしゃれに関して、「男役としての拘りは、スカートを穿かない事ぐらいでしょうか(笑)*6。」と答えておられます。
文末の(笑)には、スカートを着用しないことしか拘りが無いことへの自虐も含まれていると読み取れますが、裏を返せば、そこだけは揺るがなかったとのことなのでしょう。
以上のように、1980年代以降に入団し下級生時代を過ごした男役たちの間では、「オフでもストイックに男役の芸を磨く」という姿勢が広まり、それは男役の所作を行ってみるという行動面や、スカートを排除するというファッション面にも及んだということが分かります。
★男役が自身のジェンダー・パフォーマンスを獲得していく過程に関しては、こちらの記事も大変読みごたえがあります!
第Ⅱ部 思考 ーフェミニズムをめぐる論考 ■読解/倫理 6.宝塚歌劇にみる男役・娘役の向こう側 ー生きていくためのファンタジー – 立命館大学生存学研究所
次回は、「で、結局男役はいつまでスカートを履いていたの🤔?」という疑問に迫ります🔍
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*1:嵯峨景子「宝塚と男役 “格好良さ”の伝統とアップデート」『ユリイカ』2014年9月臨時増刊号 総特集=イケメン・スタディーズ、青土社、p.216
*2:「スター★コミュニティ マジメが売り物の汀夏子!」『宝塚グラフ』1973年2月号、宝塚歌劇団出版部、p.44
*3:「カラー企画/VOICE -絵麻緒ゆう、ナチュラルな心を持ち続けて-」『宝塚グラフ』1998年2月号、宝塚歌劇団、p.11
*4:「宝塚は「自分で戦っていくしかない場所」 元花組トップ高汐巴さん50周年に語る昔と今」Hint-Pot、https://hint-pot.jp/archives/118729
*5:「今、等身大で舞台へ―元宝塚トップスターの新たな挑戦 瀬奈じゅん(俳優)」WEDGE Infinity、https://wedge.ismedia.jp/articles/-/10307