深掘り*タカラヅカ

男役イメージの研究で修士号を取得した筆者が、宝塚をあれこれマニアックに深掘りします。

男役にパンツスタイルを求めるのはなぜ?【オフにおける男役イメージの変遷②】

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こんばんは☆

ファッションに注目し、オフにおける男役イメージ変遷の謎に迫るシリーズ、第2弾です👖

 

 

前回の記事では、「昔は男役もスカートを履いていた」という衝撃の事実を確認しました💥

natsu3ichi.hatenablog.com

 

ただ昔はそうだったとしても、

例えば今のトップスターさんが入出やポートなどでスカートを履いていたら、

ほとんどのファンはおそらく「ガーン😨」ってなりますよね。

 

 

この「ガーン😨」について、もう少し深く考えてみます。

このような感情を持つのは、

私たちファンが「男役はオフでもかっこよくパンツスタイルで決めていて欲しい!」と考えており、

スカートによってその希求が打ち砕かれてしまうからに他ならないでしょう。

 

 

では、なぜ私たちファンは「男役はパンツスタイルでいて欲しい」と考えるのでしょうか❓

 

「男役はパンツスタイルが当たり前じゃん!」と思われるかもしれませんが、

そこにはこれまであまり言及されて来なかった、とあるファン心理が隠されているのです…!

 

 

 

 

 

 

タカラジェンヌの四層構造

前述の”とあるファン心理”を明らかにするべく、

今回はタカラジェンヌがどのような存在であるのか?ということを明らかにした研究を、一つご紹介しましょう。

 

 

 

社会学者の東園子さんは、「タカラジェンヌの四層構造」という言説を提唱されています。

 

この構造に関しては、

青弓社編集部(編)『宝塚という装置』に収録されている「『宝塚』というメディアの構造――タカラジェンヌの四層構造と物語消費」

www.seikyusha.co.jp

 

及び、東さんの著書『宝塚・やおい,愛の読み替え』内で読むことが可能です。

www.shin-yo-sha.co.jp

後者が後に出版されており、前者に加筆修正がなされています。

 

 

東さんによるとタカラジェンヌは、

「役名の存在」

「芸名の存在」

「愛称の存在」

「本名の存在」

という四つの層を持つそうです。

 

この四つの層に関して、一つ一つ詳しく見て行きましょう!

 

 

 

「役名の存在」

まず「役名の存在」ですが、

これは上演される作品の登場人物を演じている状態の存在です*1

 

宝塚において上演されるのはお芝居とレヴューが中心ですが、

お芝居に登場する何らかのお役を演じているのが、「役名の存在」にあたります。

 

 

 

「芸名の存在」

一方レヴューにはほとんどの場合、ストーリーはありません。

したがってレヴューにおいてタカラジェンヌは、何らかの役を演じるのではなく、芸名の自分そのままで舞台に登場し歌や踊りを披露しています。

この芸名で名乗る男役/娘役という存在が、「芸名の存在」です*2

 

 

以上の二層は舞台上、つまりオンにおける存在です。

 

 

「愛称の存在」

 

続く「愛称の存在」が、本シリーズで言うところの「オフ」に相当します。

「愛称の存在」とは、雑誌などファン向けのメディアやイベントで披露されている、舞台を降りたタカラジェンヌの素顔です*3

 

具体的には、歌劇やグラフ、スカステに登場している時のお姿や、入出待ちやお茶会でのお姿ですね。

また、「素化粧の時のジェンヌさん」と表現することも可能かもしれません。

 

 

ここで注目したいのは、

「愛称の存在」における素顔は決してご本人そのままの素顔ではなく、

タカラジェンヌのイメージとしてふさわしいように作り上げられた素顔であるという点です。

 

もうピンとくる方もいらっしゃるかもしれませんが、ここで登場するのがいわゆるすみれコードです。

 

宝塚では「清く正しく美しく」「夢を売るフェアリー」といったイメージを守る形で、役者の情報や言動が「すみれコード」と呼ばれる暗黙のルールによって規制されています[4]

 

このすみれコードに抵触せず、タカラジェンヌのイメージにふさわしいとみなされたものだけを、タカラジェンヌは「愛称の存在」においてファンの前で公開することとなります。

 

 

 

「本名の存在」

そして最後に「本名の存在」とは、ファンに対して隠されているタカラジェンヌの素顔を指します*4

 

皆さんご存じの通り、本名や実年齢、体重、給料や恋人の有無など、前述のすみれコードに抵触する情報はこの存在に隠され、私たちの前では決して明かされません。

 

このように、すみれのヴェールに隠されたお姿というのも、ジェンヌさんはまたお持ちであります。

 

 

 

四層の連続性

以上、東さんが提唱した四層構造の各層を、詳しく確認してきました。

よく考えると、確かにタカラジェンヌはこのような4つの層を持っていると言えますよね!!

 

 

 

さて、最初に述べた”とあるファン心理”に関わって重要なのは、

これらの各層は全く無関係なものとしてばらばらに作られているのではなく、互いに連続性がある*5

という特性です。

 

タカラジェンヌはこの四層の重なりとして存在しており、舞台上と舞台裏の姿が一体化した形でファンに捉えられている*6というのです。

 

 

つまり私たちファンは、「役名の存在」~「本名の存在」の4つの層全てを重ねて、

タカラジェンヌを見ているとされています。

 

この見方に関して一つ例を挙げるとすれば、お芝居を観劇している時のこと。

今夜、ロマンス劇場で』にて、月城かなとさんは牧野健司というお役を演じていますが、

たとえ健司役を演じていても、私たちファンは健司のお役に「月城かなと」というタカラジェンヌの存在を重ねながら、お芝居を見ていますよね🌙

 

 

 

 

もう一度繰り返すと、

タカラジェンヌのオンとオフには連続性が存在しており、

ファンはタカラジェンヌのオンの姿とオフの姿を重ねて見ています。

 

したがって、私たちファンが「男役はオフでもパンツスタイルでいて欲しい!」と求めるのは、

タカラジェンヌのオンの姿とオフの姿を重ねて見ており、その姿は連続性があって欲しい」というファン心理が働いているから

 

なのです

 

 

 

 

昔は各層がズレていた?

一方、前回の記事で紹介した甲にしきさんの現役時代においては、男役もオフではスカートを履いていました。

 

したがって当時はこの四層に連続性が無く、

「役名の存在」「芸名の存在」と「愛称の存在」の間に、ズレが生じている状態であったとも言えるでしょう。

 

 

 

また甲さんのインタビューには、

昔のお客様は、プライベートは普通の可愛らしい女の子なのに舞台にあがるとかっこいい男役を演じるというギャップや、役者の化け具合に魅了されていたのだと思いますね*7

 

とあったように、ファンはそのズレに拒否反応を示すのではなく、

むしろオンとオフのギャップを楽しんでいた可能性も示唆されています。

 

 

 

次回からは、戦前から2000年代まで男役のオフ・ファッション史を追っていきますが、

この「オンとオフのズレ」は、ずっとチェックして行って下さいね!

 

 

 

 

次回は時間を100年ほどに前に巻き戻し、

劇団設立時のタカラジェンヌについてサーチ🔍

 

タカラジェンヌはなぜ「生徒」と呼ばれるのかという疑問や、

当時に制定された制服である緑の袴について

書いていきます🎀

 

 

③はこちら👇

natsu3ichi.hatenablog.com

 

 

 

 

読んで下さってありがとうございます🎩🌟

 

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*1:東園子「『宝塚』というメディアの構造――タカラジェンヌの四層構造と物語消費」 青弓社編集部編『宝塚という装置』青弓社、2009 年、p.21

*2:東(2009)前掲書、p.21

*3:東(2009)、前掲書、p.22

*4:東(2009)、前掲書、p.22

*5:東(2009)、前掲書、p.25

*6:東園子「話題提供 男役/娘役らしさを装う--タカラジェンヌの私服の演出(日本生活学会第 37 回研究発表大会 公開シンポジウム「異装の考現学」報告) 」 『生活學論叢』17、pp.73-75、2010 年、p.74

*7:小川甲子「新しいことに挑戦しつづけて」『悲劇喜劇』2018 年 9 月号、早川書房、p.17