シャーロットに見る、19世紀英国レディの生活
こんばんは🌸
本日スカイステージにて、『A Fairy Tale-青い薔薇の精-』が放送されましたね!
今回はこのお芝居より、華さん演じるヒロイン・シャーロットに焦点を当て、19世紀ヴィクトリア時代*1の英国レディの生活について深掘りしていきたいと思います!!
(久々に絵を描きました…!)
階級
まず大前提といたしまして…
イギリスは階級社会と言われますが、それはこのお芝居でも同じ。
物語には様々な階級の人物が登場しますが、彼らがどの階級に属するのかを意識することで、物語の世界がより理解できるようになると思われます。
19世紀のヴィクトリア時代は、上流・中流・労働者階級の3つの階級でとらえるのが一般的であるとされます*2。
それでは、登場人物たちがどの階級に属するのかを確認しましょう。
まず、上流階級についてです。
シャーロットは貴族の令嬢であるため、この上流階級に属します。
また、紅羽さん演じる彼女の父親(エドモンド)や城妃さん演じる母親(フローレンス)も同じくですね。
ただ、貴族の中でも位が存在します。
英国において、貴族は(上から順に)公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の五つの位に分けられます*4。
シャーロットのウィールドン家は子爵であるため、貴族の中でも位は下の方になるでしょう。
次に、中流階級です。働かなくても生きていける上流階級に対し、中流階級はビジネスで生計を立てている人びとを指します*5。
柚香さん演じる植物学者のハーヴィーや、瀬戸さん演じるオズワルド・ヴィッカーズ、そしてヴィッカーズ社で働く社員たちがこの階級に当たりますね。
最後に、労働者階級です。労働者階級はその名のとおり、肉体労働によって対価を受け取る人びとを指します*6。
真っ先に農夫などが思い浮かびますが、家事使用人はここに属する*7ため、水美さん演じるウィールドン家の庭師ニックなども、この階級に当たりますね。
このように『A Fairy Tale』には、様々な階級の人々が登場することが分かります。
ちなみにエリュは妖精なので、階級は関係ないですね…笑
(彼は無差別級なんだ! by 某ロンドンミュージカルの主人公)
寄宿学校
ここからは、実際にシャーロットに焦点を当てていきます。
成長したシャーロットは、寄宿学校に入っていました。
時代は下りますが、とあるイギリス貴族の令嬢が入った寄宿学校は、以下のように説明されています。
(前略)1921年、16歳のときに近隣の寄宿学校ハザロップ・カースル・スクールに入学した。これは上流の子女が送られる仕上げ学校(フィニシング・スクール)の一つであった。その名のとおり、社交界に出る直前の伝統的な仕上げ教育をほどこすところで、日本語で「花嫁学校」という訳語があてられる場合もある*8。
シャーロットは寄宿学校について、「行儀作法や決まりごとがいっぱいあって」と言っています。
彼女も上述の令嬢と同じように、社交界デビューに備えた教育を受けていたのではないでしょうか。
薔薇の季節と社交界
物語の中で
「エリュ、あのね、私もう薔薇の季節にこの屋敷に来られないの」
「どうして?」
「来年、社交界デビューしなくてはいけないの。だからこれからは、この季節はロンドンで過ごすことになるんですって」
というやりとりがありましたが、次はここについて詳しく見ていきます。
まず、イギリスにおける「薔薇の季節」とはいつであるのかを確認しましょう。
下記サイトによると、6月初旬~中旬が、イギリスにおいて薔薇の一番の見頃だそうです。
次に、ロンドン社交界について。
少し余談にはなりますが、ヴィクトリア時代後半の上流社交界に出入りする家に生まれついた「良家の令嬢」は、17~18歳で社交界デビューする*9とのことなので、この時のシャーロットは16~17歳であることが推測できます。
また、晴れて社交界デビューした暁には、シーズン中はロンドンで過ごすことになります。
ヴィクトリア女王時代、春から初夏のロンドンでは、令嬢のデビューのみならず数多くの社交界の催しがあり、上流階級の人々の多くが、こぞって田園の領地から首都に集まった。この期間のことを「ロンドン社交界(シーズン)」と呼ぶ*10。
シャーロットの場合、シーズン中はウィングフィールドのお屋敷(田舎の領地)を離れ、ロンドンに住むということになりますね。
また、社交期が本格的に幕を開けるのは5月の初め*11だそうです。
少なくともその時期からロンドンに住むとなると、シャーロットは6月初旬からの「薔薇の季節」にはお屋敷に来られず、したがってエリュとも会うことができないということがよく分かります。
喪服
「お母さまが亡くなった悲しみを忘れたくはないから」と、シャーロットは黒い喪服を着続けていました。
誰かを亡くした場合一定期間喪服を着るのも、当時の人々に求められたエチケットの一つでした。
親を亡くした子どもは、その人ごとの感情によって異なりますが、6か月から18か月の間、喪服を着るべきであるとされていました*12。
真鳳さん演じる後妻のイヴリンに「いつまでその喪服を着ているつもり?」と言われていることから、おそらくそれ以上シャーロットは喪服を着続けていたのでしょう。
そして、喪服といえば当時のイギリスを治めるヴィクトリア女王。
夫のアルバート公が亡くなった後、彼女は死ぬまで喪服を着続けたそうです。
結婚
シャーロットの結婚には、当時の貴族の女性が置かれていた環境がリアルに描かれています。
まず、彼女は貴族であるので、実家の資産や土地を受け継げばよいのでは?とお考えになるかもしれません。
ですが、多くの場合は男性のみに継承を認め、長男から順に男系の親族をたどっていくようになっており、女性はふつう継承を認められませんでした*13。
つまり、シャーロットは自分の家の土地や財産を引き継げないのです。
そして、おそらくウィールドン家の子供は彼女しかおらず、父親の死後は男系の親族をたどって継承がなされることでしょう。また該当者がいなければ、爵位は消滅してしまうそうです*14。
継承ができないのなら、自分で働いてお金を稼げば?とも考えられます。
しかし社会通念上、貴族の女性には仕事をして自活することが許されなかったそうです*15。
寄宿学校の同級生たちは彼女について、
「シャーロットって、ちょっと変わっているわね」
「貴族の娘なのに、仕事を持ちたいっていうのよ」
「女性が働いて、自分でお金を稼ぐの?はしたない!」
と言っていましたが、残念ながらこのように言われてしまうのも仕方がないのです…。
となると、この先生きていくにはお金持ちと結婚するしかありません。
実際、生まれ育ちはよいが目立った財産がない令嬢たちにとって、すでに身についてしまった生活レベルを落とさずに生きるためには、条件の良い結婚のほかにほとんど考えられなかったそうです*16。
これは、子爵家に生まれて上流階級の暮らしをしてきたものの、実家には十分な資産がない彼女にも当てはまるでしょう。
彼女の結婚相手は、羽立さん演じるギルバートという人物です。
彼は十分な資産を持っていますが、実業家ということで中流階級に属する人物です。
階級は彼女より下ですが、中流階級の上層には貴族をしのぐ莫大な収入をほこる新興成金もいた*17ようで、もしかしたら彼の資産はウィールドン家よりも上だったかもしれません。
事実、彼女の父親は子爵家の体面を保つだけでも大変だったそうですし。
「それが我々上流社会の常識です、一生贅沢に暮らせるわ」
「あなたが財産のある家に嫁ぐことで、みんなが幸せになるの」
これらのイヴリンの台詞には、当時の貴族の令嬢が置かれていた環境が凝縮されているように思われます。
おわりに
今回の参考文献の中心である
こちらの2冊はとてもお気に入りで、何度も読み返しているのですが、読むたびに「あぁ、19世紀のヨーロッパのお嬢様じゃなくてよかった…」と思います。
もちろん、華やかなドレスやお屋敷の暮らしなどには憧れますが、彼女たちの生活には自由など存在しなかったように思われます。
そんな中で、「自分の心の感じるまま、信じるままに生きたい」と願い、その生き方を選んだシャーロットの強さを、当時の英国レディの生活を知ることでより感じることができるのではないでしょうか。
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*1:ヴィクトリア女王が統治した、1837年~1901年を指す。
*2:村上リコ『図説 英国貴族の令嬢』河出書房新社、2014年、p.6。
*3:村上(2014)p.6。
*4:村上(2014)p.8。
*5:村上(2014)p.6。
*6:村上(2014)p.6。
*7:村上(2014)p.6。
*8:村上(2014)p.34。
*9:村上リコ『図説 英国社交界ガイド』河出書房新社、2017年、p.11。
*10:村上(2017)p.13。
*11:村上(2017)p.14。
*12:村上(2017)p.117。
*13:村上(2014)p.9。
*14:村上(2014)p.9。
*15:村上(2014)p.67。
*16:村上(2014)pp.66-67。