【考察】スカーレットの白いドレスは何を象徴するか?
こんばんは❀
今回取り上げる作品は、宝塚の名作『風と共に去りぬ』。
その中でも、ヒロイン・スカーレットといえばこれ!ともいうべき、冒頭で着用される白色のドレス(以下、問題のドレスと表記)に焦点を当て、あれこれ迫っていきます✨
(またまた大昔に描いた、真咲さんスカーレット。)
※以下、基本的には2015年中日劇場公演版に沿って、話を進めていきます。
1.ドレスについて
今回扱う問題のドレスは「第1場 樫の木屋敷の庭園」、つまり冒頭のウィルクス家の野外パーティーでスカーレットが着ているドレスです。
公演によって差はありますが、全体は白色で、所々に緑色という色遣いになっています。
スカート部分はティアード(段々フリル)のデザイン。また、胸元が大きく開けられているというのが後々大きなポイントになってくるので、ぜひ覚えておいてください。
このデザインは、明らかに映画版『風と共に去りぬ』の影響があると考えられます。
映画において、ウィルクス家のパーティーで着られているドレスがこちらです。
肩のデザインといい、白×緑の色遣いといい、映画の影響があることは明らかでしょう。
一方、映画のドレスのスカートの部分は、宝塚版とは違いティアードにはなっていませんが、これには脚本の影響があると考えられます。
宝塚版はいきなりウィルクス家のパーティーから始まりますが、映画版はその前日に、
ある登場人物(タールトン兄弟)からアシュレの婚約を聞かされる
というシーンがあります。
また、その時のスカーレットのドレスは、こちらです。
スカートがティアードになっていますね。
一方宝塚版の脚本では、スカーレットがアシュレの婚約を聞かされるのは、当日ウィルクス家のパーティーでとなっています。
よって宝塚版のドレスは、
+
=
という、脚本の各要素をドレスに投影したデザインとなっていると考えられます。
(Youtubeの動画をキャプチャしたので画質が荒いですが、もっときれいな画像がこちらで紹介されています~!)
2.エチケット違反
次にこのドレスのミソ、胸元が大きく開いているという点に注目します。
小説版、そしてそれに準ずる映画版のこのドレスが、作品の中でどのようなものとして登場するかについて、以下のような先行研究があります。
どれほどエチケット違反であるとしても、スカーレットは、この昼間には似つかわしくない、少し派手な緑のドレスが、自分を美しく見せてくれるものとして、信じて疑わなかったのでした*1。
つまりこのドレスは、エチケット違反ではあるが、彼女を一番美しく見せるものとして作品に登場します。
しかし、このドレスの一体どの部分が、エチケット違反なのでしょうか。
…それは何度も繰り返しますが、胸元が大きく開いているという点です。
このシーンは1861年を舞台としていること、またスカーレットは南部貴族の出身ということ、そして「お昼寝の時間」ということがしきりに言われているため、時間は昼頃であるということを前提としたうえで…
19世紀の上流階級のお嬢様にとっては、実際に昼間に着るドレスと、夕方以降に着るドレスには厳密に区別がありました*2。
具体的に言うと、ドレスは昼の間はいつも襟を高い位置で閉じ、深い襟開きは夜にのみ許されたのです*3。
【具体例】
昼のドレス:|1850s-1860sのコレクション|KCI デジタル・アーカイブス
夜のドレス:|1850s-1860sのコレクション|KCI デジタル・アーカイブス
つまり、胸元が閉じたドレスを着るべきであるにもかかわらず、昼に胸元の大きく開いたドレスを着ているという点で、スカーレットはエチケット違反であるということが分かります。
では、エチケット違反であるにもかかわらず、なぜこのドレスをスカーレットは選んだのでしょうか??
それは、自身が一番美しく見えるドレスを着て、大好きなアシュレの気を惹くために他なりませんでした。
前述のとおり、小説・映画において彼女は、パーティーの前日にアシュレの婚約を聞かされています。
しかも、この野外パーティーはアシュレの婚約披露の場であり、婚約が決まっているにもかかわらず、アシュレは自分のことが好きだと思い込み、なんとか彼の気を惹こうと画策して彼女はこのドレスを選んだのです*4。
エチケット違反を犯してでも、自分を美しく見せようとして選んだこのドレスには、彼女のアシュレへの強い恋心が感じられます。
3.宝塚版における問題点について
一方宝塚版における問題のドレスは、映画版が持つような意味は失われていると考えられます。
理由は2つあります。一つ目は、周りの登場人物たちの衣装の形です。
こちらのサイトに載っている舞台写真の、2枚目・16枚目(野外パーティーのシーン)にご注目ください。
スカーレットの周りにいる、紫のドレスを着た南部の令嬢たちの衣装は、なんとスカーレットと同じく胸元が大きく開いているのです!
また写真には写っていませんが、彼女の2人の妹の衣装も同じくです。
比較対象:映画版における南部の令嬢たち。
胸元が閉じており、エチケットを守った服装をしています。
つまり、宝塚版では周りの衣装の形によって、スカーレットがエチケット違反を犯しているということは分かりづらくなって(というか、そもそもエチケット自体が無くなって?)います。
また宝塚版では、問題のドレスをアシュレのために選んだという展開にはなっていません。
なぜなら脚本の変更により、彼女がアシュレの婚約を聞かされるのは、このドレスを着ているときであり、アシュレに告白をするときには、別の赤いドレスに着替えているからです。
以上より、
・宝塚版では、衣装や脚本の変更がなされているということ
・そしてその変更により、問題のドレスが「エチケット違反ではあるが、アシュレの気を惹くために選んだ、自分を一番美しく見せる」ものとして登場するという先行研究は、宝塚版には当てはまらないということ
が言えるでしょう。
せめて周りの令嬢や妹たちのドレスの胸元が閉じていたら、「たとえエチケット違反を犯してでも、自分を美しく見せることに執着する」という、スカーレットの破天荒さをこのドレスでも伝えられるのですが。。。
4.スカーレットⅡとその衣装について
宝塚版の問題のドレスは、先行研究のような意味は持たないということが分かりました。
では、宝塚版の問題のドレスは、「只の可愛いドレス」として登場するのでしょうか?
私は宝塚版では、問題のドレスはあるものを象徴していると考えます。
そしてそのカギを握るのが、スカーレットⅡという登場人物です。
脚本・演出を担当された植田紳爾先生は、スカーレットⅡはスカーレットの本音を語る役であると述べています*5。
またスカーレットⅡが登場する全9場のうち、後半6場はスカーレットと同じ衣装で登場するのに対し、前半3場は問題のドレスで登場します。
具体例として…
下記サイト3枚目の舞台写真:スカーレットⅡはスカーレットと同じ衣装ではなく、問題のドレスを着ています。
一方、レットに会いに行こうと決意するシーンや、「自分が本当に愛していたのはレットだった」と気づくシーンでは、スカーレットⅡはスカーレットと同じ衣装を着ています。
これらの衣装の違いは、大いに注目すべきことでしょう。
次に、スカーレットⅡが問題のドレスを着て登場するシーンについて詳しく見ていきます。
その衣装でスカーレットⅡが初めに登場するのは第7場ですが、これは全体を通して彼女の初登場シーンでもあります。
結婚して未亡人となり、「スカーレット・"ハミルトン"は私です」と名乗るスカーレットに対し、彼女は「スカーレット・"オハラ"は私です」と名乗ります。
このことから問題のドレスと、結婚前の少女時代のスカーレットが結び付けられているという可能性が指摘できるでしょう。
また、スカーレットⅡはスカーレットの本音を表すという役割を持つため、スカーレットⅡが問題のドレスを着ている際には、彼女の本音=心のうちは少女時代のままということが言えます。
ところで、『風と共に去りぬ』という物語は、スカーレットの愛の対象が少女時代の夢から大人の現実へと移行する成長の物語であるとされています*6。
ここでいう「少女時代の夢」はアシュレを、「大人の現実」はレット・バトラーを指すと考えられますが、確かに物語が進むにつれ、スカーレットが愛する相手はアシュレからレットへと変わっていきますよね。
なので、少女時代のスカーレットというのは、「ただアシュレを愛していて、アシュレも自分のことを愛していると信じている状態」(=アシュレに夢を見ている状態)であるとも言い換えられるでしょう。
次に、スカーレットⅡが問題のドレスで登場する最後のシーンである、第10場に注目します。スカーレットⅡの衣装から、スカーレットの心の内はまだ少女時代の状態であると推測できます。
このシーンでスカーレットは、スカーレットⅡに促されて、休暇で戦場から戻ってきたアシュレに再び告白をします。しかし彼はスカーレットの言葉を遮り、再び戦場へと戻っていきます。
ここで重要なのは、スカーレットはやはりアシュレに思いを受け取ってもらえないということです。
「アシュレに再び振られてしまう」という経験により、「ただアシュレを愛していて、アシュレも自分のことを愛していると信じ込んでいる」状態のスカーレットは、厳しい現実を突きつけられることとなります。
この「アシュレは自分のことを愛していない」と気づく経験は、そのようなスカーレットの少女時代に終止符をうつものであったとも言い換えられないでしょうか。
そしてだからこそ、スカーレットⅡが問題のドレスで登場するのは、このシーンが最後となるのではないでしょうか。
5.おわりに
今回扱った問題のドレスは映画版・宝塚版ともに、形は違えどアシュレへの愛が伝わってくるものであったとも言えるでしょう。
ですが、宝塚版において問題のドレスは、
アシュレに夢を見ていた、少女時代のスカーレットを象徴するものである
と、この考察を通じて結論付けます。
画像…こちらより。
https://www.youtube.com/watch?v=nzns3KWDELM&list=PLxdQvjv28-xjZP1UDMOgY1dWl-k_Pl4J2
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